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有床診療所で新規開業(事業承継)するには?

有床診療所で新規開業(事業承継)をしたいという相談事例を頂きました。クライアント様にはご了承をとり公開させて頂きます。

【相談実例】
「私は、これまでの臨床経験を活かして短期入院で手術、在宅医療の受け皿機能としての有床診療所で新規開業したいと考えていたところ、知人が開設している一人医師医療法人の有床診療所(5床の病床。現在は病床稼働していない)を承継するお話がありました。病床を19床に増床して事業承継をする計画で動いておりましたが、管轄の保健所から病床過剰地域における病床を増床することは難しいと指摘がありました。
有床診療所であれば増床はできるとコンサルタントからもアドバイスを受けていたので大舟に乗った気分でおりましたが、途方にくれています。なんとか病床を増床して事業承継をしたいのですが・・・」というご相談をお受けしました。
【回  答】
医療法改正により平成19年1月1日から有床診療所の一般病床の設置または増床は都道府県の許可を受けなければならなくなりました。特に病床過剰地域での有床診療所の一般病床の設置及び増床は非常に許可を得ることが難しくなっております。今回は有床診療所の開設及び増床をご検討されている先生方に病床の設置等に係る手続き方法についてお伝え致します。
1.許可を受けないで一般病床を設置(増床)する
都道府県によって違いはありますが病床を管轄する担当行政官庁に事前相談が必要です。必ず事前相談を行って計画の推進を実施して頂くことをお勧め致します。
今回は相談のあった医療圏の事例をご紹介いたします。診療所が所在する都道府県においては診療所の一般病床の設置または増床を行う場合、厚生労働省令で定める場合を除いて、都道府県知事の許可を要し、あわせて基準病床数による制限を受けています。特に病床過剰圏域となっている医療圏域では原則、診療所の一般病床の設置または増床を行うことはできないという事になっております。一方、今後、高齢化の進行等に伴い、医療・介護の需要が増加し、多様化することが見込まれる中で、地域医療に重要な役割をはたしている有床診療所の設置を促進しています。
法律的には医療法施行規則第1条の14第7項第1号から第3号までの規定に基づき、許可を受けないで有床診療所の開設及び増床することが可能となります。以下に許可を受けないで一般病床の設置又は増床ができる診療所の類型を一般病床の設置等が可能な診療所について下記のとおりです。

(許可を受けないで一般病床の設置又は増床ができる診療所の類型)
第1号  居宅等における医療の提供の推進のために必要な診療所
第2号  へき地に設置される診療所
第3号  小児医療、周産期医療その他の地域において良質かつ適切な医療が提供されるために特に必要であると認められる診療所

一般病床の設置または増床を希望する場合は上記の第1号~第3号に該当する診療所の類型の機能を有することが必要です。

2.病床の設置又は増床する場合の手続き方法
上記1に該当し病床の設置等を希望する診療所は各行政官庁等に意見を得た上で都道府県の医療審議会において審議を行う事になっています。法律的には許可を受けないで一般病床を設置(増床)できるという内容ですが実務上では地区医師会、医療圏域の専門部会、都道府県医療審議会へ了承を得る必要があるので実際は許可と同じぐらいの内容となります。実際の手続きのおおまかな流れは下記のとおりです。
事前相談(管轄の保健所、地区医師会、都道府県庁医務課に事前相談)→計画など指定の書類を提出→分科会に出席してプレゼン→医療審議会用資料提出→都道府県医療審議会の決議→保健医療計画に記載された有床診療所となります。
病床を設置(増床)したい地域が病床過剰医療圏域の場合は、病床設置の機会が少ないので事前相談にてご確認頂く事をお勧め致します。

3.事前相談を丁寧に行い具体的な計画を書面で「見える化」すること
今回のご相談は病床過剰地域であったため、地区医師会、各行政官庁へ事前相談を丁寧に行いました。事前相談を行う際のポイントは具体的な計画(資金計画、収支計画、図面、開設時期等)を書面などで「見える化」して示す事がポイントとなります。審議会などで使用する定型の様式を行政官庁で準備されているケースが多いので事前にホームページの様式集、担当官から事前に入手して計画を記載して頂く事をお勧め致します。
今回のご相談については医療圏を管轄する市町村の方針もあったため「許可を受けないで病床を増床ができる」というところまでに時間を要しましたが丁寧に事前相談を行い「地域包括ケアシステムの一旦を担い積極的に推進する」という事業承継をする先生の想いが地区医師会、市町村、圏域の医療審議会にも評価を頂いたおかげで増床することができました。
病床を設置又は増床する計画のある先生方におかれましては必ず地区医師会、管轄の保健所などの行政官庁へ事前相談を行って医療圏域を管轄する市町村の方針などを確認のうえ計画を推進して頂く事をお勧め致します。

2018年3月3日

 

訪問診療の実務 ② 事務スタッフの活用・非常勤医師と訪問診療に取り組むポイント・マニュアル化でバラつきをなくす

今回は訪問診療の効率アップとクレームの予防を行う「訪問診療における事務スタッフの活用」「複数の非常勤医師と訪問診療に取り組む際のポイント」「訪問診療をマニュアル化しバラつきをなくす」をお伝え致します。

1.事務スタッフの活用
 訪問診療に事務スタッフを同行させているクリニックも増えつつあります。事務スタッフの役割は医師や看護師が診療と処置に専念できるようなバックアップしています。具体例として、私どものクライアント様では訪問診療に同行する看護師の業務(下記①~⑦)の一部を事務スタッフへ移行させています。

<訪問診療に同行する看護師の業務>
①医師への情報提供(これまでの経過報告)
②患者様の状態確認
③採血などの処置及びカテーテル処置の補助
④残薬の確認
⑤時間の記録
⑥ケアマネ等の各関係機関への連絡調整
⑦入院手配 等

事務スタッフには当初、上記④⑤の業務を事務スタッフへ移行させ、業務に慣れた頃にプラスアルファの仕事として上記⑥⑦の業務を担ってくれるようになったおかげで医師・看護師が診療及び処置に専念できるようになり効率的に動けるようになりました。ぜひ、訪問診療に事務スタッフの活用をご検討頂きたいと思います。

2.複数の非常勤医師と訪問診療に取り組む際のポイント
私どもは訪問診療の患者数が50人以上になれば一人の医師に業務を集中させないという目的で非常勤医師を雇用して複数医師で訪問診療を取り組むことをお勧めしております。注意して頂きたい事は非常勤医師など複数の医師と訪問診療に取り組む場合、医師同士のコミュニケーション不足で統一した診療ができない事から、患者様やご家族からクレームを受けるケースが多くなる傾向にあります。複数の医師と訪問診療に取り組む場合は、必ずクリニックとしての訪問診療の方針を共有して頂くことをお勧めしています。訪問診療の方針の具体例として「患者様やご家族の心配されていることに傾聴し、可能な限りその場で症状に対する指示・指導、お薬の変更の判断などをその場で完了させる」という訪問診療に関するクリニックの方針を掲げているクライアント様がいらっしゃいます。この方針を掲げた院長先生の意図は「医療の知識がない患者様やご家族の立場になって考えると、患者の症状の変化から何を注意してどう対処していけばいいのか。薬もこれまでどおりで大丈夫なのかがわからないなど対処方法がわからないと必ず不安な気持ちになるので、可能な限り現場で不安を傾聴しその場で指示指導など完了させることで患者様やご家族の安心感を与えることができる」と考え、この方針を掲げ訪問診療に係る医師と共有しているとの事です。

3.訪問診療をマニュアル化しバラつきをなくす
医師の個々の診療スタイルのバラつきをなくすために診療方針を共有するとともに訪問診療マニュアルを作成し訪問診療のクオリティーの一定化に成功しているクリニックの訪問診療マニュアルを一部ご紹介致します。
<訪問前>
・前日に看護師が訪問診療セットの準備を行う。
・当日の訪問人数とスケジュールを確認する。
・本日訪問する患者カルテを確認し服用している薬、検査データなど情報収集を行う。
・同行する看護師申し送り(注意すべき患者さんの情報を確認しておく)。

<訪問中>
・患者カルテや申し送りで得た情報をもとに問診を行う。
・バイタル測定(聴診・血圧・パルスオキシメーター)を行う。
・診療計画にある創傷・褥瘡処置、カテーテル交換などを行う。
・ご家族や介護スタッフなど同席している方に病状の説明を行い薬の変更や継続した観察が処置や観察が必要なときは詳細説明を行う。

<訪問後>
・診察にて得た情報をカルテに記載する。
・他院受診、訪問看護の導入など定期訪問診療以外の訪問・看護が必要な場合は指示する。
・院長が不在で伝えたい時があるときは訪問を担当した看護師へ伝達を行う
・診察結果によって今後の訪問診療計画を見直す(医師同士の意見交換しリスケジュールする)。

患者様やご家族からのクレームを防止するため訪問診療のクオリティーを一定化させる自院の訪問診療マニュアルを作成し運用して頂く事をお勧め致します。

2017年8月10日

 

訪問診療の実務 ①導入オリエンテーション

今回は訪問診療に取り組むにあたり、把握して頂きたい事と訪問診療導入前の情報収集や導入オリエンテーションについて事例をまじえてお伝え致します。

1.往診と訪問診療の違い
「在宅医療」とは、「通院が困難」などの理由により、自宅での療養を望む患者に対して医師・看護婦・理学療法士や、ケアマネージャー等の福祉サービス提供者が、医学的な管理のもと、計画的、継続的に実施する医療福祉サービスの総称です。「在宅医療」における医師の主たる診療形態は「訪問診療」であり、これまでの「往診」とは区別する必要があります。その違いは、保険診療点数の分類の仕方などから次のように整理することができます。
⓵ 往診
往診とは、医師が患家に出かけて診察する行為の総称です。基本的には要請応需型*で、一般的には診療所の所定診察時間外に可能な範囲で患家を訪問する形態を指します。
*患者に呼ばれてから緊急的、単発的に患家へ出かけ診察すること
⓶訪問診療
病院・診療所等への通院が困難な患者に対して、計画的な医学管理のもとで定められた治療・看護計画に基づき、定期的に訪問して診察する形態をいいます。

2.外来から在宅への移行について
もともと自院の外来のかかりつけの患者はもちろんのこと、在宅医療の依頼であったとしても今のところなんとか通院が可能な身体状況の場合には 外来通院の形で対応することをお勧め致します。
いっぽう、虚弱高齢者や認知症の患者、通院可能な進行がんなど 通常は外来に通院することができているものの、発熱など具合が悪くなったときだけ通院が困難になる患者も存在すると思います。 そのような場合、 かかりつけ医として弾力的に往診を行い住居環境や日常生活の様子、家庭背景などの情報を得ることができるので弾力的に往診を行うことをお勧め致します。

3.訪問診療導入のオリエンテーション
訪問診療をうまくマネジメントされている院長は在宅療養を開始する前に家族と事前にオリエンテーションの機会を設けています。ここでいうオリエンテーションとは在宅療養を行うにあたり同意を取り交わすことと定義しております。

⓵当院の患者ではないケースの情報収集
病院など他の施設からの訪問診療の患者を紹介された場合、訪問診療導入のオリエンテーションに先だって前医からあらかじめ、これまでの診断・治療に関する臨床経過、継続すべき医療の内容や今後の病態見通し患者本人や家族になされた病状説明の内容など、診療開始に当たって必要となる情報を入手することをお勧め致します。 診療情報提供書に記載された情報だけでは不十分な場合も少なくないことから病診連携室などを介して追加で入手したい情報についてやりとりすることが必要になると思います。

⓶導入オリエンテーションの具体例
弊社のクライアント様が実施している訪問診療の導入オリエンテーションの概要をお伝え致します。 院長と看護師、事務員の3者で1時間程度をかけて実施しています。看護師が病歴や現在の身体の状態、生活状況など病状全般を聴取し緊急連絡の方法など訪問診療の流れを説明します。事務員は診療報酬その他の制度や一部負担金の徴収方法など、実務面の説明を担当しています。特に一部負担金の徴収方法については原則、現金回収ではなく預金口座からの自動引き落としを実施する事について了承を頂いています。医師が担当するのは主に治療ケア方針についての相談部分です。
この際、家族自身の言葉で患者や家族が現状をどう認識しているのかをお話してもらうのがポイントです。なかでも大切なのは、患者が生活する世帯の家庭背景、主介護者は誰か、 そしてキーパーソンは誰なのかを把握して頂くことをご提案致します。

また、具体的に確認すべき内容として、かかりつけ病院、 急病時の対応、 看取り対応などが挙げられます。今後、必要時に受診を希望する病院はできれば複数挙げてもらうとよいでしょう。 急病時は速やかに病院に搬送してほしいのか、 逆にできる限り在宅での治療可能性を検討してほしいのかというようなニュアンスも把握しておくことをお勧め致します。病院など紹介元から得た病状説明の内容と家族の認識にずれがあることも少なからずあります。 それらを踏まえ、在宅療養の目的や実現可能な治療ケア方針について同意を取り交わし共通認識を形成して頂くことをお勧め致します。

2017年8月4日

 

クリニックが取り組む訪問リハビリテーションの概要

1.訪問リハビリテーションとは?
訪問リハビリテーションは、病院・診療所または介護老人保健施設の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(以下「理学療法士等」という。)が、計画的な医 学的管理を行っている医師の指示にもとづき、通院が困難な利用者の自宅を訪問して心身の機能の維持回復を図り日常生活の自立を助けるために、理学療法・ 作業療法等の必要なリハビリテーションを行うものです。対象者は、病状が安定期にあり、診療にもとづき実施される計画的な医学的管理の下、自宅でのリハビリテーションが必要であると主治医が認めた要介護者・ 要支援者です。

2.事業所の指定について
病院又は診療所は、介護保険法第71条第1項(法第115条の11により準用される 場合を含む。)により、保険医療機関である場合は、介護保険の指定事業所としてみなされます(みなし指定)。言うまでもなく、みなし指定であっても、「指定基準」に従ったサー ビス提供が必要です。

3.人員基準について
人員基準については 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士 適当数を置くという事で明確な人数の基準はございません。ただし、介護老人保健施設の理学療法士等が訪問リハビリテーションを行った時間は、介護老人保健施設の人員基準算定に含めないとしています。また、訪問リハビリテーシ ョン実施により施設サービスに支障のないように留意することとされています。

4.設備基準について
事務室、事業の運営に必要な広さを有する専用の事務室が必要です。 また、利用申込みの受付、相談等に対応するのに適切なスペースを確保する必要があります。 設備及び備品等 訪問リハビリテーションの提供に必要な設備及び備品等を備えていることも要件ですが病院、診療所、介護老人保健施設における診療用に備え付けられたものを使用することができます。

5.訪問リハビリテーションに関するQ&A
Q1. 医療保険による訪問診療を算定した日において、介護保険による訪問リハビリ テーションを行った場合、医療保険と介護保険についてそれぞれ算定できるか。

A1. 医療保険による訪問診療を算定した日において、介護保険による訪問リハビリテーションが別の時間帯に別のサービスとして行われる場合に限りそれぞれ算定できる。(介護サービス関係Q&A220)

Q2.別の医療機関の医師から情報提供を受けて訪問リハビリテーションを実施する場合にどのように取扱うのか。

A2.訪問リハビリテーションは、別の医療機関の医師から情報提供を受けた場合であれば実施することができる。この場合、訪問リハビリテーションの利用者(病状に特に変化がない者に限る。)に関し訪問診療を行っている医療機関が訪問リハビリテーションを行う医療機関に対し、利用者の必要な情報を提供した場合は、情報の基礎となる診療の日から3月以内に情報を受けた場合に算定できる。この場合の訪問リハビリテーション計画は、情報提供を受けた医療機関の医師の 診療に基づき作成されるものであることから、情報を受けた医療機関の医師が診 療を行い理学療法士等に訪問リハビリテーションの指示を出す必要がある。 (介護サービス関係Q&A1175)

Q3. 他の医療機関に訪問リハビリテーションの情報提供を行う場合、当該医療機関 は医療保険の診療情報提供料を算定できるか。

A3.診療情報提供料(Ⅰ)を算定する。

以上、訪問リハビリテーションの概要をお伝え致しました。
保険医療機関の母体でできる介護保険ゾーンとして訪問リハビリテーションは地域ニーズの高い居宅サービスですので今後のクリニックの事業戦略の選択肢としてお勧め致します。

2016年9月22日